グールドと観蔵院の曼荼羅

グレン・グールドが好きな人は世界中にいて、僕もその一人。1982年録音の「ゴールドベルク変奏曲」のCDは死んだときに一緒に燃やしてほしいものの一つです。グールドの音の魅力の一つは、“聞かせてやるー”とか、“聞いてくれー”、とか“すごいだろ”とか、そういう聴く人に圧力をかけるものを一切感じさせない音なんじゃないかと思います。それと同じものを感じたのが、観蔵院美術館に所蔵されている両部曼荼羅。観蔵院の小峰彌彦住職が依頼して、日本画家の染川画伯が18年もの歳月をかけて完成された大きな曼荼羅図です。この曼荼羅図と出会ったのは「カラー版 図解・曼荼羅の見方」(小峰彌彦著 大法輪閣)によってです。京都の東寺に何度か行っていたので、曼荼羅図というのはなんちゅー不思議な図なんだろうと思っておりました。それで本屋さんで手にしたんですが、その曼荼羅図のあまりの美しに驚き、曼荼羅美術館にお伺いして本物を見たときには本当に感動しました。小峰住職他による徹底的な調査の上に、染川画伯が恐るべき精緻さで描いた曼荼羅図は日本一、いや世界一すごいと言っても過言ではないと思っています。そして、強くひかれた理由の一つに染川画伯の描かれた仏尊の表情と仕草があります。とても柔和でユーモラスな表情と姿なのですが(もちろん明王たちは怖い表情と姿ですが)、やさしいお顔や仕草が押しつけがましくないんです。言うなればそれぞれの仏尊の本質がそのまま表現されている、とでも言いましょうか。やさしさや怒り、笑い、などの感情がことさら強調されてドラマチックな絵はよく見ますが全くつまらないですよね。グールドの音と曼荼羅図ですが、何か同じものを感じています。